Caroline Polachekは本当に見せ方が上手いアーティストだと思う。
モデル業もこなすくらいだから当然といえば当然なのかもしれないが、彼女自身が制作に大きく関わってるミュージック・ビデオもアイディアに満ちていて毎回楽しみになっている。
今回紹介する「Billions」は、現在はDiplo主宰の〈Mad Decent〉に所属する異能Danny L Harleとの共同プロデュース。Harleが〈PC Music〉から作品をリリースしていた頃から続く安心と信頼のタッグだ。

「Billions」ではイントロからアトモスフィックなシンセと小気味良いビートが展開され、そこにPolachekのヴォーカルが重なっていく。オクターヴ下げて歌う2回目のヴァースや“Say, say, say, say, something to me”というフレーズでのフックの効かせ方もセンスでしかない。
「Billions」というタイトルの通り富を想起させるキーワードやモチーフは歌詞にもビデオにも登場するが、間奏パートにあたるシーンでPolachek自らが杯に集めた葡萄で作ったワインを飲ませながら子供達に読み聞かせている絵本は、文明の崩壊を示唆するような不気味な内容。未来ある子供達をたぶらかす魔女や教祖のようにも見える。
そしてその後展開されるのは、この曲のハイライトとも言える合唱隊が歌い上げる“I never felt so close to you”というフレーズ。美しいメロディと内容の残酷さの落差が本当に面白い。
2017年のChairliftの解散以降も精力的に活動してきた彼女だが、徹底したセルフプロデュースが育んだ引き摺り込まれるような蠱惑的な魅力と抜群のメロディセンスがこうしてソロとしても輝き続けている所以なのだと思う。(KanouKaoru)