「蔵前」や「浅草」などのワードでピンと来る人もいるのではないだろうか。そう、昨今の下町文化のムーブメントを作り出したいわば「火付け役」になった街だ。昔ながらの住宅街にひっそりと佇む町工場があるかと思えば、その隣は古民家を改装した洒落っ気のあるカフェやダイニングバー、アパレル店が軒を連ねる。この一見妙な並びが、トレンドに敏感な現代のユースには新鮮に映ったのだろう。
下町出身である私も無論、この流れを喜ばしく思うが、これが果たして下町の「リアル」かと問われると、答えは否である。

東武伊勢崎線(現東武スカイツリーライン)堀切駅は荒川沿いに位置し、首都高を走る車の走行音が静かに鳴り渡る。都会の喧騒から離れたと実感できる瞬間だ。駅舎の看板も渋い。

駅のホームの背にあるのは一世を風靡した学園ドラマ『3年B組金八先生』のロケ地でもあった足立区立第二中学校、通称「二中」だ。現在は廃校となり、「東京未来大学」として残っている。新校舎の建設中なのだろうか。寂れたアパートと堅牢な新校舎との相反する組み合わせが早く見てみたい気もする。

河川敷を歩く。閑散とした夕暮れ時は時間がゆっくりと流れていくのを感じる。

実家からほど近い公園。幼少の頃にお世話になった思い出の場所だ。おそらく近所の子たちは地元を離れたのか。人の気配を全く感じなくなってしまっている。現代の日本社会を表した哀愁漂うシーンだ。

木造戸建てが犇めき合う路地裏。下町の情景をリアルに映し出している。生活の薫りがたまらなく良い。

桜並木の名所。夏の終わりはなんだかセンチメンタルな雰囲気を醸し出している。ここへ来るたび、春が待ち遠しい。

北千住駅東口へと続く「学園通り」。町で一番の賑わいを見せる商店街は地元民の台所だ。前を走るのは「Uber Eats(ウーバーイーツ)」。商店街という旧式の下町文化と、飲食業界の最先端のサービスとのギャップがなんともいえないシュールな光景だ。

飾らない町並みは人の生活を肌で感じられ、これこそが「リアル」であると私は思う。
しかし、町に新しい風を吹かせることができなければ衰退の一途を辿っていってしまうのも事実。社会が利便性を追求する故に、昔懐かしい「リアル」が消失する寂しさはあるが、前に進むしか道はないのだ。