(un)decided
“undecided”──日本語ではおもに「未定の」と訳される語。
SEVESKIGのデザイナー・長野剛識が2023年秋冬シーズンより立ち上げるウィメンズラインは、ブランド名とするにはいささか茫漠とした、また、時としてネガティブに捉えられてしまうこともあるその語を冠している。
「いまはすごく変化が起きやすい時代になってきていると思う」と長野は語る。
突如巻き起こるパンデミックや戦争、経済不安。現実と虚構は入れ子になり、錯綜する。
社会的なことでも個人的なことでも、半ば強迫観念的な、すさまじいスピード感で決断や解決策が求められてしまう。
その問題意識は、SEVESKIGの2023年春夏コレクションにおいて、今敏の映画『パーフェクトブルー』とのコラボレーションを行ったこととも地続きになっている。
だからこそ、いま敢えて「未定」であることを肯定し、その表明としてブランド名を(un)decidedに決めたのだという。
その名のとおり、理想とする明確な女性像は決められておらず、時代に沿って変化していく長野の思考と密接にリンクして、毎シーズン理想の女性像は変化していく。
一方で、2012年にSEVESKIGを立ち上げて以来、長野が培ってきたもの──アメカジファッションをベースに土着的な信仰や都市伝説的な物語を編み直すデザインの手法や、国産にこだわった獣(ジビエ)のレザーをはじめとする素材づかい、さまざまなグラフィックアーティスト、ニットアーティスト、生地産地とのコラボレーション──は(un)decidedのクリエイションにも色濃く引き継がれており、不変のものだ。
たとえば今季のコレクションにも、ネイティブ・アメリカンの一部族であるホピ族の予言を着想源としたオリジナルのテキスタイルや、北海道で害獣として駆除されたキタキツネの毛皮を12頭分継ぎ接ぎしたジャケット、グラフィックアーティスト“END”とのコラボレーションなど、一目で長野のそれとわかるような表現が随所に散りばめられている。
Aラインのシルエットや抑制されたシックなカラーパレットや、光沢感のあるスパンコール素材を用いるなど、これまで長野がメンズウェアで表現できなかった要素も多く含まれている。
しかし、来季以降、最終的に(un)decidedがどのようなブランドになるのかは文字どおり「未定」で、長野自身にもわからない。
SEVESKIGと袂を分かちまったく違ったブランドになるかもしれないし、あるいはSEVESKIGと同化してしまうかもしれない。
その軽やかさこそ、このブランドの本分である。
常に揺れ動く不確実なものを捉え、確固たる技法で描き続けるということ。
(un)decidedとは、そのような試みだ。
We make clothes that give you smile.