“継承”のひとつはブランドの哲学を現代に──過去から未来に──移行させることであり、榎本光希はそれを「責務」なのだと語りました。方法はたがえど、もう一方のブランドと同様に「自分でい続ける楽観的な態度」が歴史と型を自由にしていくと確信する彼のパーソナルな視点が、ATTACHMENTとVEINが東京ファッションウィークでランウェイを共有することに必然性をもたらしました。

「前回の合同ランウェイを経て、ひとりの視点から見出される人物像に大きな差異はないのではないかと反芻していました。確かに、インテリジェンスや品をささやかに醸し出す様と、独特なエネルギーを内に秘めた存在感には常に惹かれます。しかし、右と左で語られるような二項対立は、そこには存在しないはずなのです」。気まぐれに思えるほどに、「いずれも自分だ」と思えることが、停滞や硬直をきらう“ニュートラル”な気質のあらわれなのだと語り続けました。

時に接近し、離れていく。榎本は、どちらのブランドにおいてもパーソナルな部分が共有される事実に基づきながら、それぞれの自律を探求し続けているのです。そしてジョイントショーには、異なるコンセプトが共生するもうひとつの在り方を提示する実験的かつ未来的な意味が加わりました──標榜されたセンテンスは、[NEW NORMAL]です。そのパートのひとつであるATTACHMENTにおいて:アメリカのビジュアルアーティスト、ロニ・ホーンの『鳥葬』にみられる「人と自然の距離」の視覚化は、「服は人の付属品である」とするブランドの理念と呼応するものでした。朽ちて調和する──刻々といずれ馴染み合う“distance(距離感)”の再発見は、ブランド元来のイメージングを「しなやかで、人肌ほどの温かみ」へ誘引していきました。それは、「人のデザイン、人為的なものが未来の世界に還元されていくこと」に着想した合繊と天然繊維を織り交ぜた多様なファブリックや製品、ピアス付きのウールシャツとニット、木製品の木目を利用したヘリンボーン柄から、タッチ、ドレーピーな特徴、人肌に触れる時の心地よさを重んじたテキスタイルまでのとりどりの選択をもたらしました。ことに榎本が「ひと筆で変わる感覚」と捉えたのは、ノーカラーコートが代表する襟元のカッティングと、クラシックが醸し出す誠実さと色気の調合にありました。そして、これらのデザインを明瞭に伝えるための発想は、それぞれのコーディネイトの中に集約されていきます。

VEINは、「一着の服を介して対話が発生することが大切なのです」と榎本は話します。「説明の要らない記号のようなものです。それらを面白がったり、笑えたりして、見過ごすことができない何かがある。寸言を生み軽やかな可能性もVEINのデザインに欠かせない一面なのです」。服をみる驚きや発見を望みながら、多層な黒色の彩りを描くピエール・スーラジュや、外的な光を受けて時空感覚を変質させるアニッシュ・カプーアの作品に引き込まれた彼の体感そのものと結びつき、“Illusion of your eyes(幻視)”というテーマに辿り着きました。ジップアップが走るカーディガン、カバードトレーナー、ドローコードのディテールといったVEINのアイコンはグラデーションやマテリアルのリプレイスによって継続し、グラデーションジャカードデニムを使用した象徴的なリサイズデニムは、レギュラーフィットのパンツを解体し、股ぐりに生地を足したようなデザインに。複数の色を混ぜ合わせてハケを用いた手染めのウールギャバ、生地をシュリンクさせたブルーシャツには、色の移り変わりを見出すことができます。クラッキング箔プリントされた鏡のようなシルバースウェット、ブラックのランダムウールファーは、ウールとポリエステルの質感の違いで色味、光沢、軽さに差異が生み出されました。興味深い発見は、規律のなかにこそ際立つことがあることは、多彩なブラックヘアの群像によって表現されました。

www.new-normal.online/

Designer: Koki Enomoto
Show Director: Michio Hoshina (PLANKTON)
Art Director: Tatsuya Yamaguchi
Stylist: Tatsuya Yoshida
Hair Stylist: Nori Takabayashi (YARD)
Make-up Artist: Suzuki
Casting Director: Taka Arakawa (ALTER)
Show Music by: AOKI takamasa
Japan PR: Sakas PR
Movie Director: Genki Nishikawa (MILD inc.)
Backstage Photographer: Kei Murata, Riku Ikeya

Best cooperation:
A-GIRL’S
BVLAK CO., LTD.
Oyagi co., ltd.
marunaka textile
MIYAGI KOGYO Co., LTD.
NORITAKE
NUMAJIRI TEXTILE