ころんだ玩具箱、手を伸ばす掌中の珠。
デザイナーの周囲や自身にまつわることを主観で捉え、浮かび上がった要素をコレクションに反映することは、BED j.w. FORDのもっとも自然なデザインアプローチといえます。山岸慎平の視点はルーツに根差し、経験と接続し、移りゆく日常の日々に向かっています。変わることと変わらないことの曖昧さを受け入れながら、誰でもなく彼自身が“リアリティ”を捉え続けることは、ブランドを形作るうえで抜き難く大切なことなのです。
あらゆる意味で“象徴”を示す“SYMBOL”を標榜した今シーズンにおける視界の変化は、彼の人生に“まだ”存在していなかったものと関わっていました。新しい命を、家族というもっとも親密な領域に迎え入れること。そのたったひとつの事実が、自分のものではなく誰かのためのものを主観で捉えるという、これまでブランドとして前面的に取り上げられることのなかった新鮮なイマジネーションを駆り立てました。「一言でいうなら、おもちゃ箱をひっくり返したようなコレクション」なのだと、山岸は語ります。欲望に忠実で、無垢な子どもが、自身の宝物が詰められた箱をひっくり返し、心のままに手を伸ばしていたずらをしたり、思うがままに遊んだり喜んでいる光景──彼は、雑念のないシンプルなただずまいに惹かれていったのです。
コレクションのひとつの具象的なシンボルは、型取られ、切り抜かれたリンゴです。オリジナルのスリムシルエットのテーラードジャケット、ブーツカットシェイプのパンツに配された誰もが知っているリンゴからは、ポケットの中身や人の肌がのぞきます。奥側にあり、重ねられたものの存在によって育まれるイメージは、子どもと大人の共生関係のように互いを委ね合う詩的な物語を想起させます。いびつな星やスパークルを象った金属のボタンは2022年秋冬コレクションから引き継がれ、宝石箱の中から自由に選んでドッキングしたような、おもちゃのジュエリーとオーセンティックなパールとともにルックの随所に散りばめられました。ファブリックにおけるランダムファンシーツイードの選択と、フォーマルからミリタリーまであらゆるムードとの楽しい調合もまた、今シーズンを象徴しています。プライマリーなカラーパレットや、とりどりのボタンには子ども服特有のエッセンスを知覚できるでしょう。ラメ糸を用いたソフトなサマーニットや、シャツカフス付きのフーディには控えめな風流心が、ネクタイ付きのロングシャツやジレ、ショーツには、カッティングによって育まれる清艶がブランドの表情として立ち現れています。
これまで単一色だった垂れ下がる一輪の造花は、花弁と茎の色がはじめて分けられました。想像力の足がかりを明瞭で分かり易いさまに美学をおいた、今シーズンのために。
Designer: Shinpei Yamagishi
Photographer: Genki Nishikawa
Styling: BED j.w. Ford + Haruna Aka
Hair Make-Up: Katsuyoshi Kojima
Art Director + Writer: Tatsuya Yamaguchi
Press: Keitaro Nagasaka at Sakas PR