存在しそうでしない言葉、Re-tradition(再伝統)は、大江マイケル仁によるCOGNOMENの2023年春夏コレクションを表現する、もっとも適切な造語だといえます。歴史や知見を内包したトラッドと“従来のやり方”を再び眼差すこと──職人との緊密なコミュニケーションのうえで、考察と創造を繰り返すことによって新しいアイデアが立ち上がってくるのだとデザイナーは話します。

「既存のルールにはない刺激を共有することで、職人たちとのより良い関係を推し進めたい。新しいアイデアを形にするのは彼らです。そうして出来上がるものは、自分たちだけでなく、多くの人々にとっても愛されうる、刺激的な存在になると信じているからです」

COGNOMENのコレクションを印象深いものにし、デザイナーのアティチュードがもっとも現れるニットウェアは、従来では同じように分類される色相を見つめ直し、組成や複数の糸の混在といった技術的前進によってシンプルながら独自の風合いと陰影が豊かな存在感を放ちます。大江は、「昔の人はモノクロで夢を見たというけど、現代人の僕はカラートーンの世界を想像した」のだと語り添えました。また、一見するとホーズに思える素材感と厚みがありながら、足底はパイル編みで、サッカーソックスのように折り返すとセンテンスとラインが現れる詩的な仕様──デザイナーを魅了し続けるサッカー、身近なスケーターカルチャー、そしてトラッドがひとつとして整合することは、今季のテーマを体現するもっともアイコニックなアプローチのひとつでした。カラーパレットがフットボールにまつわるヴィンテージアイテムを直感させることに、遊び心は潜んでいます。「カジュアルな人のちょっとしたドレスアップはいつも素敵」だと話すデザイナーにとって、トラッドを基点に、反目すると思える要素の新しい調和の探索は、デザインを介した重要なテーマだったといいます。テーラードジャケットにリベットを使用したり、ストリートネイチャーなパンツポケットのディテールに、オーセンティックなシルエットやダブル仕立ての裾を調合したことは、そうした仕法のひとつにすぎません。スタイリングにおいても同様の視点を持っている彼は、一言でいうなら「トラッドなフットボール感」というブランドらしい表現なのだと話します。

天然繊維と再生繊維のオプションの中から、地球環境を視野に入れながら素材のオリジナリティを追求しています。それぞれの特性を活かした選択と調合による表現は、洗いや製品染めによって“もう一つの表情”が生み出されたジャカードデニム、コットンベースのシャツ生地にテンセルによるささやかに浮き上がるストライプ柄を生み出しました。こうしたファブリックの探求をニッティングにおけるミクスチャにまで発展させることもまた、COGNOMENがデザインを介して継続的に表現し続けていることです。

Designer: Gene Michael Oe
Photographer: Genki Nishikawa (MILD inc.)
Stylist: Shohei Kashima (W)
Hair: Shunsuke Meguro
Model: Romaine Dixon (CDU)
Press: Keitaro Nagasaka (Sakas PR)