それが日常にあろうと、サッカーの試合中にあろうと、“シーン”にはドラマがひそんでいます。時に必然で、あるいは偶発で、もしかしたら運命ともいえるかもしれません。そのことをデザイナーに知らせたのは、試合を終えた選手たちがユニフォーム交換をする姿だったといいます。国籍や所属の異なる者同士が、たったひとつのことに夢中になり、熾烈な戦いの後に“なんらか”をエクスチェンジする。大江マイケル仁にとっては見慣れた光景だが、そこに、「その者たちにしか味わうことのできない感情や、それぞれの物語がある」として、「初陣である23AWのランウェイの次となる今回、地続きのブランドのストーリーとして、戦いの後に広がる世界を表現したい」と思い至ったと話します。

とりわけフットボールはデザイナーの嗜好の中軸にあり、そしてCOGNOMENの最大のインスピレーション源でもあります。20世紀まではことさらマスキュリンなイメージを放っていたフットボールが、老若男女がプレイし、観戦し、性別や人種、国籍を超えた“ボーダーニュートラル”な存在へとシフトしていることもまた、大江のデザイン表現を感化する不可欠な要素といえます。「表面ではなく、バックグラウンド全てへの関心がデザインの核に影響していると再認識しています。それが全体の統一感と表現の広がりに結びついているのです」。COGNOMENにおいて、スポーツが単なるディテールのエッセンスにとどまることはないのです。

そして、ここでいうシーンから見出される魅力や、抽出されるユニークな解釈を、ファッションデザインとランウェイショーのフィールドに置換し、昇華していきました──たとえば、異なる体型の選手間で“交換”されたユニフォームは、それぞれのアンバランスなシルエットを生み出します。さらに、アンダーシャツやトレーニングウェア──これらは無数のサイン入りのショーピースとして生まれ変わりました──とのレイヤーからは、試合後のほんの10分間だけ目にすることができる新鮮な選手の雰囲気が醸し出されるといいます。そうして、袖や身頃を取り外すことができ、その機能と印象が変わるトランスフォーミングなアイテムはデザインされていきました。

あるいは、異なるカラーストライプが入り混じったニットシリーズは、ロッカールームに向かっていく両チームの選手たちが入り乱れるシーンから着想されました。「それぞれ違ったユニフォームを着ているけれど、そこには人間同士が互いを称え合っている集合体にみえる。物質だけに注目せず、ひいてシーンを捉えると、実はもっとシンプルで壮大なストーリーが裏では流れていることに気付かされたのです」。立ち襟のオーバーサイズシャツは、ゴールキーパー(GK)が退場し、フィールドプレイヤーがより体格の良いGKユニフォームを着てプレイする時の、ルーズフィットでアンバランスな姿に着想されています。スーツは、サッカーフィールドで唯一その姿を許される監督を想起させるでしょう。憂いたくなる世界的な酷暑はカジュアルダウンを促しますが、素材感もディテールも組成も、涼しく着れることを目指したサマーニットは、すべての人たちにふさわしいともいえます。“empathy(共感)”は必ずしも、物体そのものに宿るのではありません。COGNOMENにおいては、人と人の関わりを介し、モノとモノの間に発生しうる、平和的で、感情的なストーリーとステイトメントを立ち上がらせるものなのです。

Design: Gene Michael Oe
Show Direction: SHIGE KANEKO CO.,LTD.
Styling: Shohei Kashima in W inc.
Casting Direction: Kosuke Kuroyanagi in VOLO
Hair Direction: Mikio
Make-Up Direction: Kazuyuki Matsumura
Photography: Genki Nishikawa in mild inc.
Movie Direction: Genki Nishikawa in mild inc.
Translation: Patricia Daly Oe
Press: Keitaro Nagasaka in Sakas PR