エレクトロポップバンドBloodgroupで活躍し、ソロアーティストとしても作品をリリースしているJanus Rasmussen(ヤヌス・ラスムセン)と、今やアイスランドを代表する作曲家となったÓlafur Arnalds(オーラヴル・アルナルズ)によるユニット、Kiasmos(キアスモス)。ミニマルなビートに繊細な音の層を重ねた1stアルバムで多くのリスナーを魅了してきた彼らは、今年10年ぶりにリリースしたアルバム『II』では、リズムとメロディをさらに解放し自由で豊かな表現を追求している。今回は再び新たな歩みを始めた2人にリキッドルームでの来日公演の直前にインタビューをした。

Photography: Ryo Mitamura
Interpretation: Kazumi Someya
Interview & Translation: KanouKaoru
Edit: Hiroto Hoshina

──ライブ前の貴重な時間をありがとうございます。では始めさせてください。最初のリリースは2009年(Rival ConsolesとのスプリットEP)ですが、2人で音楽を作り始めたのはさらに前のことですね。出会いやKiasmosとして活動を始めるに至ったきっかけについて教えてください。

ヤヌス・ラスムセン(以下、ヤヌス):僕がBloodgroupってバンドをやっていたんだけど、オーラヴルがそのサウンドエンジニアをしてくれていたんだ。それが僕らの出会いだね。そこから5年後にアルバムを出した。その5年間は2人でずっと「ララララ〜」ってやっていただけだよ(笑)

Janus Rasmussen(ヤヌス・ラスムセン)

──(笑)その1stアルバム『Kiasmos』のリリース後、しばらく時間が空きました。それぞれが多忙な活動を続ける中、意識的に今回のアルバム『II』の制作をスタートさせましたか?

オーラヴル・アルナルズ(以下、オーラヴル):『Kiasmos』を出してから2人で一緒に何かを作ろうって時間がなかなか取れなかったんだ。2015年から2017年頃はツアーも多くて忙しかったっていうのはあるんだけど。その後長い休みを取って何度かスタジオに入ってみたんだけど、あまりピンとくるものがなかったんだよね。だから昨年、一昨年くらいになってようやく手応えがあった。突然カチッと音が鳴った感じ、そこからアルバムを作ろうと思ったのさ。

Ólafur Arnalds(オーラヴル・アルナルズ)

──そのスイッチが入ってからの制作スピードは早かった?

ヤヌス:うん、そこからはパッパッパッと進んでいったね。去年の11月頃にはアルバム自体は完成してミックス作業に回したって感じかな。

──ミニマルな美しさを追求した1stと比較して、今回のアルバムからは空間的な広がり、バウンシーなビート、ドラマティックなメロディを感じました。シングルの「Flown」をはじめUKガラージなどの影響も感じさせる音作りをされていて、2人がより解放し自由になっているように感じます。自分達では何か変化したと感じていますか?

ヤヌス:まあ10年やってきたからね(笑)プロデューサーとしての経験も積んで、個人的にもスキルが上がったと思う。最初のアルバムがミニマルだったのは、それしか手法を知らなかったからさ。当時の作品を振り返ってみるとすごくシンプルだよね。でも今ではトラック数が100を超えることもあって、かなり複雑なことができるようになった実感があるよ。そして君が言ったリズムがバウンシーになったという話だけど、もうストレートなビートはやりたくないんだ。もっと遊び心があって自由で軽やかな音作りを楽しみたい。僕らの周りでは最近UKガラージ的なサウンドも流行っているから、そこからの影響もあるだろうね。

──初期から最近までのライブ映像を見ていて、楽曲が少しずつアレンジされているのを感じたのですが過去の曲を大きく変化させようと思いますか?

オーラヴル:いや、歴史を尊重するのは大事だと思う。そうだろう?過去のことはそのまま受け入れるべきなんだ。

ヤヌス:細かなアレンジについてはライブのためにそうしているのさ、今の曲に合うように。BPMもね。でもあまりに変えすぎるともう別の曲になってしまうからとても難しい。やっぱり最初のアイデアは尊重しなければいけないんだ。

──ありがとうございます。そして今回はバリ島にあるオーラヴルのスタジオでのレコーディングも試したと聞きました。アイスランドとは環境や文化が大きく異なりますが、それが自分たち自身やアルバム制作に何かしらの良い影響を与えることを期待しましたか?

オーラヴル:とにかくまずはひとつの場所に集まって長い時間スタジオに入ろうって話したんだ、ただただアルバム制作に集中するためにね。結果的にバリという土地からの影響がアルバムに収められているのは思わぬボーナスだったんだよ。最初からそれを狙っていたわけではないんだ。

──なるほど、ヤヌスはバリでのレコーディング中のエピソードは何かありますか?

ヤヌス:バリのスタジオはアイスランドのスタジオと比べてそんなに機材も揃っていないんだ。その状況に慣れるのに少し時間がかかったよ。しかも実は持って行ったシンセサイザーを2台壊しちゃってね……環境の変化……つまり電圧の問題だったんだけど(苦笑)仕方ないから何か買おうと思った時に出会ったのがガムランだったんだ。でもそうやって完全ではない環境の中でなんとか工夫してみようって経験が僕らをよりクリエイティブにしたと思う。実際そのあたりから調子も上がっていったし。

──案外ハードなことがあったんですね(苦笑)そういえばガムランの音階って日本の沖縄地方の伝統的な琉球音階とすごく似ているんです。五音音階ってアジア的だから……そういう要素はもしかしたら日本のリスナーの深層心理に刺さるかもしれないですね(笑)

オーラヴル:(少し気まずそうに)ああ……でも僕らレコーディングする時に曲に合うようにトランスポーズ(移調)しちゃっているんだよね、申し訳ない(苦笑)

ヤヌス:本当に僕らってすぐそういうことをしちゃうんだよね……(苦笑)

──そうでしたか(笑)ではそんな楽曲制作の具体的な流れについて聞かせてください。例えばそれぞれのソロワークからこぼれたアイデアを持ち込むこともありますか?

ヤヌス:基本的にはスタジオに入ってから2人で作り上げていく感じ、僕らはそれが好きなんだと思う。たまに何かアイデアを持ち込むこともあるけど全体の10%……いや5%くらいかな?これ使えるかな?って感じで確認するんだよ。

オーラヴル:うん、いつもそんなやり方だ。

──個人的にはヤヌスがビートを作り、オーラヴルがピアノでコードを重ねて曲の骨格を作っていく……という姿を想像しますが、実際のプロセスは?

ヤヌス:いや、それはちょっと単純な見方さ!僕ら2人ともプロデューサーだからね。時々僕がメロディを作ってその後ビートを作るってこともあるさ。ピアノのパートはオーラヴルが担当することが多いけどね。

オーラヴル:うん、ピアノはほとんどの場合はそうだね。

ヤヌス:でも僕もメロディやビートを作るんだ。僕はシンガーでもあるからね、メロディには耳が慣れているんだ。

──なるほど、そうですよね。そうやってアルバムを制作する、完成させた時点で既にライブでのインプロヴィゼーションの余地を意識しますか?

オーラヴル:そもそもこのアルバムで鳴っている音も、スタジオでのインプロヴィゼーションの結果だからね。ビートをループで流しておいて、即興で演奏しながらいい感じのフレーズが見つかるまで試していく。そんな感じで作り始めることが多いよ。余地については意識している。即興の余地を与える部分もあれば、しっかりまとめたい部分もある。そしてさらに自由にやりたい部分もあるんだ。

──今日のような単独公演と朝霧JAMのようなフェスではライブパフォーマンスで違ったアプローチをしますか?

オーラヴル:フェスでは普段よりも自由に演奏する傾向があると思う。一方ロンドンのクラブだったりヘッドラインショーではじっくりとショーを作り上げている。

ヤヌス:フェスでは僕らのことをすぐに伝えなくちゃいけないこともあるからね。一方、僕らのことを知ってくれている人が多く集まるヘッドラインショーでは時間をかけて演出を構築できるんだ。

──なるほど、ところでこうやって遠い地で単独公演がソールドアウトするのはどんな気分?

オーラヴル:最高だよ、本当に嬉しいことさ。

ヤヌス:もうこれ以上を望むことはないよ……2人で音楽を作り始めた時は誰かが聴いてくれるなんて思ってもいなかったし。こうやって地球の裏側でライブできて、しかもそれがソールドアウトするなんて本当にラッキーだよ。

──本当にすばらしいですよね。そうだ、RedditでAMA(Ask Me Anything)をやっていた時にヤヌスが「FUJI ROCKに出たい。何かしら理由をつけて日本に来たい」って書いていたのを見てすごくグッときました(笑)

ヤヌス:おー!うん、書いたね。それが目標みたいなところはあるよ。(FUJIって)有名だもの(笑)

──ああいう日本人があまり見てなさそうなところで書いているのがリアルで素敵だなと思いました。朝霧とFUJIは同じプロモーターだからきっとうまくいくと思います(笑)

ヤヌス:そう、そうなんだよね(笑)今日と明日のライブを頑張って決めようかなと思っているよ(笑)

リリース情報

‘II’ artwork by Studio Torsten Posselt

タイトル:II(トゥー)
リリース日:2024年7月5日
レーベル:Erased Tapes
フォーマット:
国内流通盤CD
国内流通盤2枚組LP(全世界2000枚限定Clear Vinyl)
国内流通盤2枚組LP
リリース詳細:https://www.inpartmaint.com/site/39125/
配信リンク:https://idol-io.ffm.to/Kiasmos-II

Kiasmos(キアスモス)

Photo credit: Maximilian König

2007年に結成したアイスランドの作曲家オーラヴル・アルナルズと、エレクトロポップ・バンドBloodgroupで活動していたヤヌス・ラスムセンによるエレクトロニック・ユニット。2009年にRival Consolesとのスプリット12インチ『65 / Milo』、2012年には2曲の新曲とFaltyDL、65daysofstaticによるリミックスを収録した12インチ『Thrown EP』をリリース。2013年にはオーラヴル・アルナルズの来日を記念した編集盤『Two Songs For Dance + Stare + Thrown EP』にキアスモス名義で2曲を収録。2014年にデビューアルバム『キアスモス』をリリース。その後は世界中のフェスに多く出演し2015年には新曲3曲にリミックスを加えた『Swept EP』を、そして2017年に新曲4曲+リミックス2曲(BonoboとStimmingが参加)の『Blurred』を発表。2018年にはTaicoclubにヤヌスがKiasmos DJ Setとして来日。2019年にはZara Larssonが参加したTom Walkerの“Now You're Gone”にリミックスを提供。2024年3月にはアルバムに先行して3曲収録した『Flown』を発表し、7月5日に10年振りのフルアルバム『トゥー』をErased Tapesよりリリース。

Website: https://kiasmos.is/
X: https://x.com/kiasmos_
Instagram: https://www.instagram.com/kiasmos_/