過度に進行する工業化や加速する資本主義を批判し、自然崇拝やスピリチュアリズムへ回帰しなければ人類の破滅は間近であると予言する、ネイティブ・アメリカンのホピ族。
あるいは、テクノロジーの発展によって夢と現実の境界が融解し、現実世界が夢に飲み込まれていく混沌を描き出した筒井康隆小説原作・今敏監督の長編アニメーション映画『PAPRIKA(パプリカ)』。
SEVESKIGおよび(un)decidedのデザイナー・長野剛識が2023年秋冬コレクションの制作にあたって着想源としたのは、テクノロジーによって世界が崩壊するふたつのストーリーだ。
哲学思想やフィクション上のテーマであったはずのキーワードが、昨年来リアルタイムで飛び込んでくるようになった「戦争」の報道をきっかけに、いつの間にか現実世界での問題意識へと変化し、日々平和について思いを巡らせる中で、自ずとテーマは決まっていったのだと長野は語る。
ナイロン扁平糸を織り上げたオリジナルの生地は、ホピ族にとって神聖な農作物であるトウモロコシの保存袋をイメージして開発。
「Fourth World」「New World Order」といった伝承に登場する終末思想的なキーワードをAIに入力してイラストを生成し、ゴブラン織の生地に落とし込んだ。
さらにオリオン座やコヨーテなど、伝承において重要な役割を果たすモチーフを刺繍やプリントで表現。
伝統的な柄のブランケットは今治タオルとのコラボレーションによって再構築した。
また、彼らが信仰する精霊カチーナの衣服に着想を得て、フリンジやレースアップなど、紐状のディテールを多用している。
2023年春夏コレクションの『パーフェクトブルー』に次いで実現した、今敏監督作品とのコラボレーション。
『パプリカ』の登場人物であるロボ化した時田が、夢と現実の境界で融け落ちていくようなシーンをフリンジで表現。
ホピ族と『パプリカ』の世界観もまたクロスオーバーさせることに挑戦した。
また、場面や設定画がプリントされたTシャツにはすべてARや2DVFXデータが内蔵されており、スマートフォンを介して動画を再生することができるほか、ファッションショーでは、作中の混沌を彩る有象無象たちがARによってランウェイ上に現れる仕掛けを施した。
スマートフォンアプリの画面を介すると、現実のファッションショーが夢のパレードと交差するという、まさに『パプリカ』的体験が待っている。
現実と虚構、バーチャルとフィジカルといった単純な二項対立はもはや成立し得ない。
急速な進化を続けるテクノロジーを疑い、批判しながらも、自身の創作世界に吸収していく姿勢は、長野が現代社会に抱くアンビバレントな感情の証左とも言える。
Designer: Takanori Nagano
Show Director: Shingo Tatai (SUN DESIGN INSTITUTE.)
Stylist: Go Momose
Hair Stylist: Daisuke Mukai
Make-up Artist: Toru Sakanishi
Casting Director: Shimana
Show Music by: FPM
3DCG: Masami Munekawa
Movie Director: Nostalgic Bike
Backstage Photographer: Takako Kanai
Writer: Tomohiro Onishi
Press: Sakas PR