綿々と流れる時間は、過去と現在の違いを絶え間なく生み出していきます。ある時──それはどの時代にも遡ることができます──の真新しさが、未来で普遍性をまとうことがあるように、現在の地点の不変と思えるものは、かつて生々しい新規な状態だったに違いない。「既存の更新」を標榜するTammeの、23FWコレクションは、デザイナーが立つ現在から眺望される過去と、現代の対比によって立ち上がっていきました。過去から流るる脈絡や来歴が現代に接続しているとしたら、宙吊りにされた時代の痕跡を俯瞰して拾い上げ、点と点を結ぶ玉田達也の想像力は、不可逆的な時間に逆らうことも意味しています。
たとえば、まっさらだったコンクリートの壁面が経年を受け入れてひび割れ、徐々に退廃していくファクトや、生まれたての衣服が生活に浸透し、傷つき、汚れていく馴染み深い現象とも重なっていきます。その視点は、ことさら素材の選択と活用に介在し、「生の素材」であるデニムに施されたクラックブリーチ、脱色と移染によってグレーに調合された綿ナイロンツイルに見ることができます。時間の経過をまざまざと付与する加工は経年により朽ちたイメージを誘引し、クラシカルなサージやグレンチェック、レザーのエンボス加工で優雅と粗野の印象を共存させたサテンは、それらを視覚的に際立たせていきました。
ことに、「夜半、無機質な外壁からこぼれる、内側のあたたかな光や窓から覗く生活感」にあった相反する二面性のあり方は、玉田の対比の美学に触れたのだといいます。ブルータリズム建築のような屈強な外側と、人間味、ないしは本質的な“個”を知覚できる内の存在が必然的に共生したランドスケープは、二局的な内・外の存在を際立たせていた──これはTammeが推し進める衣服における折衷の可能性をも暗示しています。いわば、「内と外には差異があり、時に反目し、矛盾している」とする玉田にとって、周囲と同化し、保護するための強固だが劣化するシェルの認識が、「本来こうありたい、こうなりたいと欲する弱さを抱く自分自身」という、パトスに似た内面の再発見を促したのです。そして、窓からこぼれ落ちた複雑な光のように、外の隙間や「傷」から内側が覗き、垣間見えるという姿そのものが、コンクリートグレーを中軸にプリミティブな赤、青、緑のカラーパレットをもつ23FWコレクションの思想にも照射されています。
あるがままで充分である──外から内が覗くという「現代的な形態」に矛盾を抱きながら、その本来のあり方に称賛の視点をあてる玉田は、「矛盾の理解」こそがアイデンティティの確立に結びつくと言います。そして、既存や過去からの抽出、対比、複層、解放と閉鎖、混在と顕現を介した再構成は、静謐と気品を内包したコレクションに見出すことができます:身体にフィットするライナー、それと呼応するフレアやボックスシルエットに見える硬質さ。矛盾を抱え、エスタブリッシュメントに反骨したテッズの精神性。時代のメタファーとしてのエドワードジャケットやヴィンセントパンツ、スーベニアジャケットの完成された構造と、それらを射抜くスリットやダメージ。加え、針抜きのニットや、男性的なモチーフを女性的な技法で構成した刺繍図案の隙間や端から覗く色、あるいは人肌。これらのデザインの根底には、着る人による自由な変形を望み、レイヤードによって芽生える重奏に価値をおく玉田のフィロソフィーが流れています。再構成こそが「既存」を現代と未来に還元する稀有な方法だとする態度は、常に、流動を続けるのです。
Designer: Tatsuya Tamada
Stylist: Tatsuya Yoshida
Photographer: Koichiro Iwamoto (KiKi inc.)
Hair: Yusuke Morioka
Writer: Tatsuya Yamaguchi
PR: Keitaro Nagasaka (Sakas PR)