パンデミック以降、はじめてパリに降り立ち、オフィシャルのタイムテーブルでは初となるフィジカルでのプレゼンテーションを行ったKIDILLのデザイナー末安弘明は、「誰にでも、ファッションや音楽、アートでも、あるいは自身の感性を揺れ動かすカルチャーに惹き込まれた“初めて”の瞬間がある」と、口火を切りました。「私たちは──いや、少なくとも僕自身は、多感な時期に出合ったもっともパーソナルなレベルで欠かせないものをこれからも忘れることはないと確信したのです」

発表の場をパリに移してから、「自身の中軸にあるパンクの背景がますます強まっているのを感じている」と語る末安は、これまで以上にKIDILLを形作るメンタリティに従った2023年春夏コレクションで、自身がかつて愛した多くの作品との再会に足掛かりがあったと話します。最初期のパンク、ハードコアを象徴するDIYスピリットを再浮上させるデザイナーを今なお魅了し続けるアンダーグラウンドなカルチャー全般から、人間のダークサイドを肉薄と表現した映画黎明期のホラームービー、自由を志向するストリートの少年たちの代替できない精神とクリエイティビティを活写したスケートビデオは、そのひとつにすぎません。

「こうした一連の日々で再確認できたことは、それらを数十年経った今も好きだという明快なファクトでした。本質的に感銘を受けたものには、僕にとっての永遠性があって精神の中核に結びついているということなのです」。サイケデリックなムードを内包した今シーズンのタイトルに掲げられた“HELL HAUS”とは、その不穏なムードだけでなく、彼にとって永遠のインスピレーションが同居した最も親密な内的な家──言わば、揺るがない彼自身の精神性の顕示だといえます。

具体的で個人的なプロセスは、生地の選択や、染色といった二次加工の直接的な表現から、コレクションに通底するマインドセットにまで影響をもたらしました。シンプルな追想を伴う体験は、KIDILLのクリエイションとそれぞれのアイテムにはっきりとした意思を与え、より先鋭的に前進させています。さらに、ブランドの真価に結びつく方法論であったコラボレーション──あるいは、精神性を共有できる確かなコミュニティへの考え方をさらに一歩進めることも意味していました。

たとえば、アントワープを拠点とするグラフィックデザイナーであるTom Tosseynとの邂逅は決定的でした。末安は「彼とのコミュニケーションを通じて、嗜好の一致、つまり、その共鳴だけが放つエネルギーこそが新しさの探求には不可欠なのだと再認識したのです」と語り、「そのスケールの大小に関わらず“究極の偏愛”を感覚的に共有できるクリエイターとの共作はKIDILLの未来を切り拓くに違いないのです」と話を続けました。

数年間の奇妙な日々を過ごしながらも、必ずしもアルゴリズムに従って動くことのない私たちのマインドは、それぞれのリアリティと直面しています。今シーズン、明らかになった永続的な命題として「私の精神は何者であるかの反芻を繰り返している」と末安は語り、「それは“眼に見えない真実”の発見とも言い換えられるのかもしれません」と続けました。彼は脇目も触れず、自身のバックグラウンドを呼び起こしながら、自分だけが持ち得る強さを信じ続けていくことを、コレクションを介して明らかにしました。そして、決定的な共鳴者とともにつくり続ける、自身の宿命について語ったのです。

CREDITS

Show Director: Michio Hoshina *PLANKTON
Stylist: Tatsuya Shimada
Live Music: Tot Onyx
Hair: Yui Hirohata
Make-up: Kanako Yoshida
Casting: Taka Arakawa *ALTER
Production: Devi Sok
Photos: Kyohei Hattori
Writer: Tatsuya Yamaguchi
Show Coordinator: Azusa Nozaki
International Press: Ritual Projects
Japan Press: Sakas PR
International Sales: Kohei Sato
Support: Tokyo Fashion Award

Artwork: Tom Tosseyn, maya Shibasaki
Collaboration: MINEDENIM, CA4LA, DOLLSSAN, Malcolm Guerre, rurumu:
All Shoes: PHILEO *DOVER STREET MARKET PARIS

Movie Director: Idan Barazani
Music: Tot Onyx

KIDILL Designer: Hiroaki Sueyasu

KIDILL × MINEDENIM Collaboration

MINEDENIMとは、従来のデニムブランドの枠や既成概念にとらわれることなく、スタンダードとイノベーションが共存するブランドです。ヴィンテージにこだわりすぎて、現代人の嗜好にフィットしていないデザインやパターン、過去の古き良き技術を再現しようとするクラフトマンシップにこだわりすぎて生まれる野暮ったさ。こうした印象を一切削ぎ落とし、美しいシルエット、洗練されたディテール、リアルな表情を持ったデニムをMINEDENIMは提案します。そこにはクオリティも伴います。デニムの生産地として名高い岡山で30年以上デニムを縫製してきた実績のある自社工場を抱えており、品質は折り紙付きです。また最高峰の技術を誇る日本のデニム産地との取り組みにより、新しい生地や新しい加工の開発にも力を入れております。そして、ディレクションはヴィンテージからモードまで幅広くデニムに触れてきたスタイリスト野口強氏。ヴィンテージはもちろんのこと、長年モードも見続けてきた野口氏の経験と審美眼で、洗練されたデニムスタイルを提案します。