人と服の境界にまつわる探求──デザイナーは2023年秋冬のランウェイショーが行われた国立競技場の巨大な天井を地上から見上げた。すると、大空が楕円形に縁取られているように見えた。人と空の中間に発生した境界線を、さらに四角形の写真的構図で写し取ると、楕円の曲線と直線でトリミングされたグラフィックに姿を変えた。それは、シャープなフォルムと単色の色面によって鋭利な視覚経験を呼び起こす作家、エルズワース・ケリー(1923-2015)の作品群を想起させ、24年春夏における耽美的なモチーフとなっていきます。

前シーズンで思索された「人と服の距離」は、素肌と一着のみで構成されたスタイルが服と身体が混じり合い現れ、「それだけで充足している」という屈託のないシンプリシティの思想に接続していきました。そして、24年春夏では、グラフィカルに切り取られた大空と同様に、“距離”の間に存在する隠れた境目が浮き上がる可能性にデザイナーの視点が向けられます。「思考を変えると、現れるシェイプが変容する」と概括する榎本は、デザインを介した「人と服の境界そのもの」を眼差しています。

「削ること」が身体への注目を促しながら服との狭間にエッジを顕現させることは、ノーカラーのジャケットやベルトの切り替え線を失ったパンツ、裏地がわずかに裾から覗くショーツに発見できます。他方で、抑制された白けたカラーパレットを基調に、「与える」ことで顕現するエッジは、スラックスやハーフスリーブのシャツの太いカフスや、自然由来の曲線で描かれるなだらかなシルエットに生み出されています。さらに、「服は着る人の魅力や個性、内面を引き出す付属品である」とするブランドのフィロソフィーと呼応しながら、人と服の不可視の境界を思わせるのは、ジャージーに置き換えられた滑らかなモッズコートやシャツ、布帛で仕立てられたTシャツといったさりげない素材の「変換」にあります。ATTACHMENTの一貫したプロダクションの基本にある、快適性、ウォッシャブル、ストレスからの逃避を重んじるファブリックの選択は、24年春夏では特に、「一枚で成立するというアイデアの延長にあり、また、“それだけで良い”とする新しい見方によって引き出される人の魅力に関するアプローチ」なのだと、榎本は話します。それは、「あるべきものの消失」や「そう見えることのデザイン」が、人を介してデザインを見出す榎本のシンプリシティの美学が更新されていることをも意味しています。

Designer: Koki Enomoto
Art Director: Tatsuya Yamaguchi
Photographer: Yuichiro Noda
Stylist: Tatsuya Yoshida
Hair Stylist: Kazuhiro Naka
Make-up Artist: Suzuki
Japan PR: Sakas PR