コロナ渦により自宅での活動を余儀なくされている現在だが、この時間を有効に使おうと工夫を凝らす人も多いのではないだろうか。私もその一人だ。外食を控えるようになってからは、もっぱら「晩酌」がマイブームとなってしまった以上、そのひと時を充実させるために「モノ」にこだわってしまうのは必然。

今回紹介するのは「うすはり」と呼ばれる、ビールやハイボールなどの晩酌の主役にうってつけのグラスだ。「うすはり」を製造する「松徳硝子」は、墨田区にある江戸硝子専門の生産工場。1922年の創業以来モノづくりの伝統を守り続けている正真正銘の「町工場」だ。

「うすはり」は職人の手作業で生み出された町工場伝統のプロダクト

1922年の創業当初は、「電球ガラス」を職人ひとりひとりが「手吹き」と呼ばれる手作業で作っていたが、時代の変遷とともにオートメーション化されてしまった。その流れに則って主要な製造品を「嗜好品食器」へと移行していく。1989年に登場した「うすはり」は、「電球ガラス」の製造方法をそのまま活かしたいわば松徳硝子のアイデンティティそのものなのだ。

厚さわずか9mmの「うすはり」は極上の口あたりを実現。飲料を最高の一杯に仕上げるディテール

職人の手作業で作る厚さわずか9mmの薄いガラスは、なめらかで心地の良い口あたりとともに、泡が発砲する質感や、グラスを傾けたときの氷の音など、飲み物の繊細な「情報」を余すことなく五感に訴えかけてくる。その実力は一般のユーザーはもちろん、一流料亭までもが御用達だ。美食家が集う現場でも採用される道具なのだから、そのクオリティに間違いはないはずだ。

いっさいの無駄を排除した、日本の文化独自の精神を宿した美しいデザイン

「Less is More(少ない方が豊か)」を体現したようなシンプルな筒状の硝子は、いっさいの無駄を排除することで最小のデザインにして最大の機能を発揮している。グラスとしての機能を追求したがゆえのミニマルなデザインは、「禅」や「侘び寂び」といった日本の文化独自の「引き算の美学」が感じられる。

温故知新のプロダクトは、我々日本人が重じている精神までもが垣間見える究極のデザインだ。宅飲み派はぜひ試してみては?